日本の初夢儀礼

── 枕の下の宝船が、未来を映す

日本では、新しい年の最初に見る夢を「初夢」と呼び、 その内容を吉兆や運勢のしるしとしてきました。 正月の夜、枕の下に宝船の絵を忍ばせて眠りにつく── そこには、夢を通して未来を占おうとする人々の祈りがありました。

この展示では、江戸期に広まった初夢儀礼を中心に、 文献や民俗資料をもとに再構成しています。


正月の夜、夢に託された願い

一年の始まりに見る夢は、単なる幻想ではなく、未来の設計図と考えられていました。 冬の静けさのなか、囲炉裏の火を囲んで語られる吉凶の話題。 人は夜更けに灯を落とし、胸に「よい夢」を願って眠りにつきました。

初夢とされるのは「元旦から二日の夜」あるいは「二日から三日の夜」。 その違いは地域や時代によって異なりますが、いずれも新しい年に よき始まりを夢に託す習慣に変わりはありませんでした。

「一富士、二鷹、三なすび」 ― 吉夢を表す言葉として広まった縁起


宝船と七福神

江戸の町では、正月になると「宝船」の絵札が売られました。 その絵には七福神が乗り、財宝や米俵を積んだ船が描かれています。 人々はこれを枕の下に敷き、夢に福が訪れることを願いました。

もし悪い夢を見てしまったときには、翌朝その絵札を川へ流すことで 災いを清めるという風習もありました。 夢は単なる心象ではなく、祈りと浄化のサイクルの一部として扱われたのです。


初夢儀礼の手順

  1. 準備:
    正月に市で売られる宝船の絵を手に入れ、枕元に用意する。
  2. 祈り:
    七福神に豊穣や無事を願い、静かに目を閉じる。
  3. 就寝:
    枕の下に宝船の絵を敷き、眠りの中で吉兆の夢を待つ。
  4. 夢の確認:
    翌朝、夢の内容を思い出し、「吉夢」であるかを語り合う。
  5. 浄化:
    凶夢であれば、宝船を川に流して災いを祓う。


夢をめぐる象徴とことば遊び

初夢には象徴的な「吉兆」が結びつけられてきました。 もっとも有名なのが、「一富士、二鷹、三なすび」。 富士は不二(無二)の繁栄、鷹は高みを目指す力、茄子は「成す」に通じます。

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