今夜は満月。
夕闇が辺りを包み始めると、
静かに花開く一輪の花がある。
月見草。
その名前の通り、
月の出を待ちわびるように、
あたりが静まりかえる頃、
そっと花びらを開く。
淡い月の光を浴びながら、
ひそやかに、短い命のすべてを
一夜に込めて咲き誇るのだ。
月見草の花は「一日花」。
わずか一晩だけの美しさを、
満月の光に捧げるように咲いては、
夜明けとともに静かにその命を閉じる。
一日限りだからこそ、
祈るように咲く。
満月に語りかけ、
夜空に願いを届けるように、
限られた時間にその美しさを惜しみなく放つ。
月見草を見つめていると、
幼い日の遠い記憶がふとよみがえる。
「ね、月は僕を追いかけてくるんだよ。」
誇らしげにジグザグに駆けていく弟。
空には、薄く輝く満月。
弟は笑いながら、どこまでも駆けていった。
私と満月との、
いちばん遠い、優しい記憶――。
月見草の透きとおる黄色い花びらは、
淡く優しく、どこか儚い。
短い時間にすべてを込めて咲くその姿に、
私たちは気づかされる。
限りある時間のなかで、
自分はどんな美しさを咲かせられるだろう。
月見草は静かな問いを、
そっと心に語りかける。
「あなたは、いま、
美しく生きていますか?」
月明かりが辺りを満たす静かな夜。
ひそやかに咲く月見草の声に耳を澄ませながら、
私も心を開いていこう。
夜明けまでのわずかな間、
月見草が見せてくれる美しい夢に、
そっと身を委ねて――。
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