夏の扉が静かに開かれると、
いつの間にか、蓮の花がそっと咲きはじめる。
蓮は決して急がない。
真夏の太陽がじっと見つめても、
蒸し暑い風が葉をやさしく撫でても、
泥の底から茎をゆっくり伸ばし、
静かに蕾を開いてゆく。
まるで深い瞑想に沈む修行僧のように、
清らかで、凛とした、
どこか神秘的な風情をまといながら。
蓮を見るたびに、
ある日の午後に見た、不思議な夢がふっと蘇る。
夢の中で私は神様とともに、
薄緑の花びらを一枚一枚丁寧に重ね、
命を吹き込むように花を作っていた。
その美しいひとときにうっとりと浸りながら目が覚め、
それから数日後に、私は新しい命を授かったことを知る。
最近になって気づいたのは、
その夢で作っていた花が「蓮」だったということ。
蓮はずっと、池に浮かぶ睡蓮のことだと思い込んでいたけれど、
実際に蓮を目にした瞬間、
長くすっと伸びた茎の先に咲くその姿が、
あの日、夢の中で神様と重ね合わせた花そのものだと分かった。
蓮には昔からさまざまな神秘的な物語が伝えられている。
例えばインドでは、
蓮は仏陀の誕生を祝福する花として知られている。
仏陀が生まれて、最初の七歩を歩むたび、
足跡に蓮の花が次々と咲いたという。
純粋な魂が地上に降り立つとき、
世界は美しい蓮の花でその誕生を喜んだのだ。
蓮は泥の中から生まれるからこそ、美しく尊いとされる。
人生がどんなに困難であっても、
蓮はその花びらの奥に光を宿しながら、
気高く花開く力を秘めて。
蓮の花を思うとき、
あの遠い日の午後に見た美しい夢が、
静かに、そして鮮やかによみがえってくる。
薄緑の花びらを重ねて、
神様と過ごした夢の時間――。
それは今でも私の胸に宿る、
小さくて確かな命の幸福のかけら。
今年の夏は、蓮の花を飾り、
その花びらや色、香りをゆっくりと味わってみたい。
あなたの心にも、
蓮の優しいエネルギーが届きますように。
穏やかな癒しと美しい夢の余韻が、
そっと広がりますように。
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